1.あまいおみやげ
にぃくんは、今日もお見舞いにきてくれたの。
にぃくんの手には、わたしのお気に入り、桃のゼリー。
ほんのり甘くて冷たいゼリーは美味しいから大好きだし、にぃくんはわたしの『いちばん』……。
どっちかだけでも嬉しいのに、それが同時にきちゃったら、ほっぺがゆるんでるのがじぶんでわかるくらい幸せ。
でも……でもね。
はずかしくて、にぃくんとふたりっきりの時じゃないとできないんだけど、それがもっとすごいことになっちゃう方法があるの。
「うわーい、にぃくん、ありがとぉ」
ってお礼を言ってからね、にぃくんが渡してくれたゼリーとスプーンをにぃくんに返して言うの。
「食べさせて、ほしいな」
そうするとね、にぃくんはちょっと困ったような顔をするんだけど、ちゃんとスプーンににぃくんがいつもごはん食べるときの半分くらいだけすくって「あーん」って……えへへー。
お口のなかは甘くって、にぃくんのお顔はやさしくって……ゼリーみたいに溶けちゃいそう。
ほっぺを押さえた手がすごく熱くなっちゃうの。
だからね、わたし、食べるのがもともとおそいのにもっとおそくなっちゃって、お口のなかを空にするとね、もうにぃくんが次の分をスプーンにのっけて待っててくれる。
わたし、嬉しくってすぐにお口をおおきく開けてお願いするの。
「にぃくん、もっとー」
にぃくんはちょっと呆れた感じで笑うんだぁ。
「何か食べてる時のいずみは幸せそうな顔してるな」
うん、だって、ほんとうに幸せなんだもん。
ただね、ゼリーばっかりじゃなくて時々シャーベットを買ってきてくれることもあるんだけど、そのときは大変。
だって、いそがないと溶けちゃうでしょ?
急ぎすぎて頭が痛くなったりとか――そのときは、にぃくんに頭をなでてもらうんだけどね――お口の中がものすごーく冷たくなっちゃったりとかして大騒ぎになっちゃうの。
あとは、パイとか、トルテなんかも好き。
でもね、そういうのを売ってるのって、ちゃんとしたケーキ屋さんとかでしょ?
だから、にぃくんは買いに行くのがはずかしいみたいで、時々じゃないとごちそうしてくれないの。
えっと、それと、わたしは桃だったらどんなお菓子でもいいだけじゃなくって、甘いくだものなら何でも好き……。
りんごのパイとか、いちごのトルテ。マンゴーのプリンもおいしいよね?
あ、でもでも、パイナップルだけはダメなの。
にぃくんが言ったたんだけど、わたしが自分で覚えてないくらいむかしはちゃんと好きだったみたい。
でもね、一度パイナップルの食べ過ぎでおなかこわしちゃってからすごい嫌がるようになっちゃったみたい。
ひょっとしたら……にぃくんが「あーん」ってしてくれるなら食べれちゃうかも? って気はしてるの。だから、こんどお願いしてみようかな、ってときどき思うことはあるんだけど……
でも、にぃくんがせっかく食べさせてくれるんだったら、やっぱり、好きなものを食べたいなぁ。
にぃくんは嫌なコトを素敵なコトに変えてくれるけど、素敵なコトはもっともっと素敵にしてくれるんだから。
えーっと、だからね……。
わたしはにぃくんがお見舞いに来てくれるのが『いちばん』うれしいの。
お別れのときはにぃくんがまたすぐに来てくれるようにお願いをしちゃうんだぁ。
今日もね、さっきしちゃったの。
「じゃあ、またね」
そう言って、ドアを開けたにぃくんにもう一回だけベッドのところに来てもらって、しゃがんでもらってね。
「にぃくん、きっと、また来てね」
そしてね、思いっきり近くのにぃくんのお顔にもっともっと近付いて……。
「わたし、待ってるから」
って、にぃくんのほっぺに、チュって……しちゃうの。